新型コロナウィルスによる災禍(COVID-19)は留まるところを知りません。
ワクチンが開発途上である現在では、これに対応する手段は極めて受け身であり、
一般市民レベルが対応できるものは、いわゆる「三密」を避ける程度でしかありません。
COVID-19の感染経路については未だ明らかでは無い点も多いのですが、「空気感染」、「エアロゾル感染」の可能性も高いのではと考えられています。
新型コロナウィルス自体の大きさは、50から150ナノメートル程度とされています。極めて小さいものです。
「空気感染」とは、文字通りウィルスが単体で空気中を浮遊する結果、その空気に触れた人間が罹患してしまう現象で、感染経路としては最も深刻なものです
但し、空気感染を起こすウィルスは、単体で空気中に一定時間以上生存するものに限られます。
一方、空気中で単体では生存出来ないウィルスは、唾液や汗などの中に留まることで生存し続けるのですが、このウィルスを含んだ唾液などを浴びて罹患する場合の事を「飛沫感染」と呼びます。一般に唾液は大きな塊(といっても最大で1mm程度ですが)となっているため、数秒程度で落下・沈降します。
そのため、飛沫感染は、三密の内「密接」を避ける、具体的には会食事に大声で騒がない、マスクを着用するといった手段をとることで、かなりの確率で感染が避けられると考えられています。
「エアロゾル感染」はあまり聞き慣れない言葉かも知れません。
これは「飛沫感染」の一種とも言えます。エアロゾルとは、「空気中に存在する微小な個体または液体」の事です。大きさで言えば、概ね「10ナノメートルから数10マイクロメートル」です。飛沫とは単に大きさが異なるだけなのですが、空気中での挙動はかなり異なってきます。飛沫はサイズが大きいため、数秒から数十秒程度で落下し(この時の落下速度を沈降速度と言います)、空気中に浮遊し続けることはありません。しかしエアロゾル状態となると、理論上の沈降速度は毎秒数センチメートル程度以下となってきます。室内の空気は常に小さな渦を巻いている(乱流と言います)状態であるため、この程度の沈降速度ではこれらの渦の中に巻き込まれてしまい、半永久的に落下してきません。従って、液体または個体でもエアロゾル状態となれば空気中を漂い続けることになります。
多くのウィルスは単体では空気中で生存出来ないのですが、唾液や汗などの水分中にあれば生存が可能な場合がしばしばあります。先述の通り、一般に飛沫感染の場合はかなり大きな塊になるため空気中では沈降・落下するのですが、ウィルスを含んだ唾液などがかなり小さな塊(エアロゾル)となった時、空気中に長く生息する事が可能となります。
これらを合わせて考えると、いわゆるソーシャルディスタンスを保ち「密接」・「密集」を避けることにより飛沫感染はある程度防ぐことが出来るのですが、空気感染、エアロゾル感染については、部屋の「密閉」状態を防ぎ、換気の状態をよりよく保つ必要がある訳です。
建築環境的な対策が必要となってくる理由です。
「科戸の風」とは、「罪やけがれを吹き払う風」として、古くから使われてきた言葉です。
空気の流れは見えにくく、居室内で換気が十分に行われているか、また汚染物質が十分に排気されているかどうかは確認しにくい事項でした。
芝浦工業大学西村研究室は、
国士舘大学南研究室(代表:南泰裕教授)、
オールド・コーベ・カフェ(代表:石原慎一氏)
とともに、「科戸の風プロジェクト」を立ち上げました。
このプロジェクトには、CFD(Computer Fluid Dynamics:数値流体力学)シミュレーション技術を用いて建物の中の気流を可視化・制御し、科戸の風を吹かせることで建物の密閉状態を改善し、新型コロナウイルスに立ち向かっていくという思いが込められています。
このプロジェクトは、当初、神戸商工会議所が会員向けに、新型コロナ対策として気流の動きを「見える化」し、改善を提案する
「KCCI神戸 換気シミュレーションプロジェクト」
のコアメンバーとして、神戸に縁のある研究者が集まって始動しました。
公共施設や商業施設・ホールなどを対象に会員企業から広く参加を頂き、室内の空気の流れの気流の見える化を行うことで空調設備などの改善提案を行う、という趣旨のプロジェクトです。
その後、他の民間企業・組織などからの要請に基づいて解析を行う様になり、「科戸の風プロジェクト」として独立した組織となっていきました。
本プロジェクトにはその他国士舘大学南研究室の学生(尾崎賢氏、田嶋海一氏、林大雅氏、古川直也氏、山口直哉氏)・各参画組織の施設担当者など、非常に多くの人たちが参加しています。
また、本プロジェクト発足のきっかけとなった神戸商工会議所の竹下竜介氏には謝意を表します。
今回公表する7カ所については、いずれも神戸商工会議所「KCCI神戸換気シミュレーションプロジェクト」に基づいて得られたデータです。
「科戸の風プロジェクト」は、この他にも民間企業などからの要請に基づいて解析を行っておりますが、それらについては当該企業からの許可が下り次第、随時公表していきます。